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第136回 Jupiter Evolving:データセンターネットワークでの光スイッチ(OCS)の活用例(パート1) (中井悦司) 2022年9月

はじめに

 今回からは、2022年に公開された論文「Jupiter Evolving: Transforming Google's Datacenter Network via Optical Circuit Switches and Software-Defined Networking」を元にして、Googleのデータセンターネットワークにおける光スイッチ(OCS: Optical Circuit Switch)の活用例を紹介していきます。

Jupiterネットワークへの光スイッチの導入

 Googleのデータセンター内部では、Jupiterと呼ばれる独自設計のデータセンターネットワークのシステムが利用されています。2015年には、具体的なアーキテクチャーを解説した論文「Jupiter Rising: A Decade of Clos Topologies and Centralized Control in Google's Datacenter Network」が公開されており、この論文の内容は以下の記事で紹介してきました。

第13回 1Pbpsのデータセンターネットワークを実現したJupiter(パート1)
第14回 1Pbpsのデータセンターネットワークを実現したJupiter(パート2)
第15回 1Pbpsのデータセンターネットワークを実現したJupiter(パート3)
第16回 1Pbpsのデータセンターネットワークを実現したJupiter(パート4)

 冒頭の論文では、これ以降のJupiterの新たな進化が紹介されており、最大の特徴として、ソフトウェアで制御可能な光スイッチ(OCS: Optical Circuit Switch)を導入して、「Spine」と呼ばれるトップレベルのネットワークスイッチを削減した点が解説されています。今回は、Jupiterの新しいアーキテクチャーを理解するための事前知識となる「光スイッチ」の仕組みを解説しておきます。

ソフトウェア制御可能な「パッチパネル」

 一般に高速なネットワーク通信が必要な環境では、光ファイバーケーブルを用いた光信号による通信処理が利用されます。光信号によるネットワークパケットを受け取ったネットワークスイッチは、内部的に電気信号に変換してスイッチングの処理を行い、再度、パケットの情報を光信号に変換して外部に送信します。内部的には、ソフトウェアで制御される電子回路でスイッチングの処理を行うため、高度なスイッチングの処理が可能になりますが、その一方で、光信号を電気信号に変換する、あるいは、その逆の変換を行うというオーバーヘッドが発生します。仮に、光信号を電気信号に変換せずに、光信号のままでスイッチングの処理ができれば、より高速な処理が可能になると期待できます。
 光信号をそのままの形でスイッチングする原始的な仕組みとしては、光ファイバーケーブルの「パッチパネル」があります(図1)。これは、パネル上のポートを介して、2本のケーブルを接続するもので、一方のケーブルからやってきた光信号をそのままの形でもう一方のケーブルに送り込みます。

fig01.png

図1 光ファイバーケーブルのパッチパネル(Wikipediaより転載/Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported)

 パッチパネルの場合は、2本のケーブルを直接に接続するだけですので、パケットの流れを変更するには、パッチパネル上でのケーブルの配線を手作業で変更する必要があります。これを「スイッチングの仕組み」と呼ぶのは少し無理があるかも知れませんが、光スイッチ(OCS)の仕組みは、ある意味では、パッチパネルの延長線上にあると言えます(図2)。

fig02.png

図2 光スイッチ(OCS)の仕組み(論文より抜粋)

 図2は、Googleのデータセンターで使用されている独自設計の光スイッチの仕組みを解説した図になります。左下にある136個のポートと右下にある136個のポートがそれぞれ1対1で接続されますが、この間には光信号を反射する多数の「鏡」が配置されています。図の中央にある2つの「2D MEMS array」には、それぞれ136個の微小な鏡が配置されており、136個のポートから照射された光信号を個別に反射することができます。そして、これらの微小な鏡の角度を個別に制御することで、光信号の行き先、すなわち、接続されるペアとなるポートを自由に切り替えることができます。対向のポートを1対1で接続するという意味ではパッチパネルと同等ですが、手作業を介さずに接続先を切り替えられる点がメリットになります。次回以降の記事で詳しく解説しますが、Googleのデータセンターで使用されている光スイッチは、外部のSDN(Software Defined Network)コントーローラーからOpenFlowのプロトコルで接続先を切り替えられるようになっています。これにより、データセンターネットワークの物理的な配線(ネットワークトポロジー)をソフトウェアから変更できる仕組みを実現しています。
 微小な鏡の角度を制御する「2D MEMS array」の仕組みは古くから研究されてきたもので、Googleの独自技術というわけではありませんが、図2の仕組みでは、図の上部にあるカメラモジュールで鏡の角度を検知して、鏡の方向を制御するという仕組みが実装されています。冒頭の論文によると、この仕組みはGoogleが独自に開発したもので、これにより、光スイッチの精度向上と製造コストの削減に成功したということです。

次回予告

 今回は、2022年に公開された論文「Jupiter Evolving: Transforming Google's Datacenter Network via Optical Circuit Switches and Software-Defined Networking」を元にして、Googleのデータセンターネットワークにおける光スイッチ(OCS: Optical Circuit Switch)の活用例を紹介するための準備として、光スイッチ(OCN)の仕組みを解説しました。次回は、この光スイッチがJupiterネットワークのシステムにどのように組み込まれているのか、そのアーキテクチャーを解説したいと思います。

Disclaimer:この記事は個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には関係はありません。

 


 

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