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第52回 インターネットサービスの「データ削除」に関するユーザー調査(パート2) (中井悦司) 2019年1月

はじめに

 前回に引き続き、2018年に公開された論文「"If I press delete, it's gone" - User Understanding of Online Data Deletion and Expiration」を紹介します。この論文では、(技術者ではない)一般のユーザーが、「データ削除」の仕組みをどのように理解しているかをインタビュー調査をもとに分析しています。今回は、インタビューによって得られたキーワード、そして、分析から得られた知見(専門家からのアドバイス)を紹介していきます。

インタビューから得られたキーワード

 はじめに、インタビューと分析の方法をあらためて整理しておきます。この論文の著者グループは、非技術系のユーザー22名に対して、電子メールサービスとSNSを例として、データ削除がどのような仕組みで行われているかをホワイトボードで説明してもらうという、インタビュー形式の調査を行いました。その際に、ユーザーが説明に用いた用語や考え方を抽出・整理することで、一般ユーザーの理解のポイントを発見しようというわけです。図1は、実際の結果を「データ削除処理に関わるコンポーネント」「最終的なデータの状態」「プライバシーに関する懸念」という3つの観点でまとめたものになります。

fig01

図1 インタビューから得られた用語・考え方(論文より抜粋)

 ここでは、電子メールサービスとSNSのほかに、文脈を特定しない一般的な削除処理(General Deleteion)の説明という3つのパターンごとに、それぞれの用語・考え方を示したユーザーの数がまとめられています。ユニークユーザー数で見ると、バックエンドの仕組みに関して、「サーバー」という一般的な用語は15名のユーザーが用いていますが、「データベース」というより専門的な用語は3名のユーザーしか述べていません。半数以上のユーザーは、バックエンドになんらかの仕組みがあることは知っているものの、その先の詳細を理解しているユーザーは、かなり少ないことがわかります。また、バックエンドの存在を意識しておらず、「ゴミ箱を空にする」といったインターフェースレベルでの理解にとどまるユーザーも少数ながら存在しています。論文の中では、インタビュー中の次のような台詞も紹介されています。

"If I press delete, it's gone, not anymore inside, that's what I understand."

 また、最終的なデータの状態に関しては、多くのユーザーは、削除処理をした場合でも、何らかの形でバックアップデータが残ると考える一方、完全に消えてなくなると考えるユーザーもそれぞれのシナリオについて、少数ながら存在するようです。一つ驚いたのは、電子メールのシナリオにおいても、3名のユーザーは、データ、すなわち、送信したメールは完全に消えると考えていることです。たとえ送信側で削除をしても、少なくとも、受信側のメールは残り続けるはずですので、これは正しい理解とは言えません。このような一般ユーザーの理解を知ることは、新しいサービスを開発する上での大切なポイントになりそうです。

専門家からのアドバイス

 論文の中では、この他にもさまざま分析結果が記されていますが、ここでは、特に「専門家からのアドバイス」を紹介したいと思います。これは、一般ユーザーとの対比のために、同様のインタビュー調査を受けた技術系の専門家7名によるディスカッションの結果をまとめたものです。一般ユーザーであっても、プライバシーに関するリスクを自身でコントロールできるようになるためには、次の6つの点を理解しておくとよいだろうというものになります。

1. バックエンドの存在:データは、手元の端末以外の場所に保存されている。

2. 削除のタイミング:データの削除は、必ずしも即座に行われるわけではない。

3. バックアップ:一般に、1つのデータは複数の場所に複製して保存されている。複数サービスが連携している場合は、サービス間でデータがコピーされる場合もある。

4. 推測された情報:たとえば、音楽のストリーミングサービスで、ある楽曲をリストから削除しても、そこから生成された「好みのジャンル」といったプロファイル情報は残る場合がある。

5. 匿名化:ユーザー側でデータを削除しても、サービス側では匿名化された形で(どのユーザーのデータかはわからない形で)データが残ることがある。

6. データのコピー:インターネット上で公開/共有されたデータは、第三者がコピーを取って保存する可能性がある(電子メールが受信者によって保存されるのもこの一例)。

 もしかしたら、読者のみなさんも気づいていなかったポイントがあるのではないでしょうか?

次回予告

 今回は、2018年に公開された論文「"If I press delete, it's gone" - User Understanding of Online Data Deletion and Expiration」について、インタビュー調査によって得られたキーワード、そして、それらの分析結果に基づく、「専門家からのアドバイス」を紹介しました。より詳細な分析に興味のある方は、ぜひ論文の方も読んでみてください。
 次回は、機械学習モデルのハイパーパラメーターチューニングに関する話題をお届けしたいと思います。

Disclaimer:この記事は個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には関係はありません。

 


 

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