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第87回 GoogleにおけるMutation Testの実践(パート2) (中井悦司) 2020年8月

はじめに

 前回に続いて、2018年に公開された論文「State of Mutation Testing at Google」を元にして、「Mutation Test(ミューテーション・テスト)」と呼ばれるソフトウェアのテスト方法について、Googleにおける取り組みと、その有効性の分析結果を紹介します。

Mutation Testの流れ

 前回の記事では、Googleの開発プロセスにおけるMutation Testの流れを説明しました。開発者がコードの変更に伴うレビューをリクエストしたタイミングで、変更対象部分についてMutation Testを実施します。具体的には、変更対象のそれぞれの行に対して、前回の図1に示したコード変更ルールの中から、どれか1つをランダムに選択して適用します。コードの一部を変更すると、変更していない他の部分の動作も変化する可能性があるため、厳密には、コードのすべての行に対してMutationを適用するべきです。しかしながら、実際にこれを行うとMutation Testの実行量が膨大になるため、変更した行のみにMutationを適用しています。(1つのMutationに対して、関連するすべてのテストを実行して、どれか1つでも「正しく失敗する」ものがあることをチェックする必要がある点に注意してください。)
 また、Mutation Testは、コードの正しさを確認するものではなく、テスト用のコードの有用性(誤ったコードを正しく検出できること)を確認するものでした。Mutation Testを導入する際は、テスト駆動開発が導入されており、すでにある程度のテストコードがあることが前提となります。図1は、Google社内の開発プロジェクトにおけるテストカバレッジ(テストの実行時に、コードの何パーセントの部分が実行されるかを示す値)を表したものですが、大多数のプロジェクトが70%以上のカバレッジを実現してることがわかります。

fig01

図1 プロジェクトごとのコードカバレッジの分布(論文より抜粋)

変異体(Mutant)の生存率とその有用性

 Googleでは、7種類のプログラミング言語に対してMutation Testを実施しており、論文の中では、言語ごとに「変異体(Mutantionを加えたコード)」の生存率、すなわち、既存のテストで検出されなかったものの割合が示されています。図2がその結果となります。左側が言語ごとの結果で(Py、Js、Tsは、それぞれ、Python、JavaScript、TypeScriptを表します)、右側は前回に説明したコード変更ルールごとの結果です。

fig02

図2 変異体の生存率(論文より抜粋)

 これは、それぞれの言語の特性を考える上での興味深いデータと言えますが、一方、実際にレビューを行うレビュアーの視点ではどうでしょうか? 論文によると、1回のレビューにつき、中央値で約2個の変異体が「生き残る」そうです。つまり、1回のレビューにおいて、前回の図2のような指摘が、2個程度は現れることになります。レビュアーは、これらの指摘が有用だったかを報告するわけですが、その集計結果は図3のようになります。図2と同様に、変更ルールごとの結果とプログラミング言語ごとの結果が記されています。

fig03

図3 Mutation Testによる検出結果の有用性(論文より抜粋)

 一般には、Mutation Testの有用性はあまり高く評価されていないことを考えると、非常によい結果が得られています。前回説明したように、「Not useful」という評価を受けたMutationについては、これを自動的に除外するツールを利用しており、それがうまく機能していると考えられます。また、Mutation Testの目的は、テスト用のコードの問題点を発見することですが、開発者からのフィードバックでは、テスト対象のコードそのものについても、新たな知見が得られることがあるそうです。「この変異体がなぜ検出できなかったのか」という点を考えることで、元のコードの動作についての新しい発見があるものと想像されます。

次回予告

 今回は、2018年に公開された論文「State of Mutation Testing at Google」を元にして、GoogleにおけるMutation Testの分析結果を紹介しました。次回は、アプリケーションの負荷分散に関わるインフラ技術の話題をお届けしたいと思います。

Disclaimer:この記事は個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には関係はありません。

 


 

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