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第39回 ハウス・オブ・カード 2014年10月

 過去に掲載されたコラム(「第4回 スタートレック 」、「第13回 シャーロック」、「第37回 600万ドルの男」)でご存じのとおり、筆者は英国、米国を問わず海外TVドラマシリーズを好んでよく観ます。現在進行形で米国発の連続ドラマ「ハウス・オブ・カード」 "House of Cards" にはまっています。

 "House of Cards" は、原作が英国BBCのTVドラマ「野望の階段」をベースとしたリメイク作品でポリティカル・サスペンス(Political Suspense)とジャンルされており、ホワイトハウスを舞台にした陰謀と策略、愛憎と駆け引きが渦巻いてスリリングに展開するストーリーです。監督はデビッド・フィンチャー(David Fincher)、主演はケビン・スペーシー(Kevin Spacey)。

 元々デビッド・フィンチャーは映画監督ですが、テレビに登場してきているのは、過去に存在した映画とテレビ業界の間にあった垣根も近年はその敷居が低くなってきているからなのでしょう。監督ではスティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)を皮切りに、デヴィッド・リンチ(David Lynch))の大成功で転機を迎え、J・J・エイブラムス(J.J. Abrams)のように二つの業界を自由に行き来する監督まで登場しています。

 最新ニュースでは大御所マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督がまたもテレビに戻ってきますし、天才と誉れ高い名監督のスティーブン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)に至っては映画界を引退してテレビに専念するニュースも届いています。

 同様に映画監督だけではなく映画俳優がTVドラマに出演するのも珍しくなくなりました。あのシガニー・ウィーバー(Sigourney Weaver)がTVドラマに初主演もしているのです。しかしながら、脂の乗り切った映画俳優が時間を拘束されるテレビドラマの主役のキャスティングを受け入れるのは稀でありレアなケースでしょう。ましてやケビン・スペーシーのTVシリーズ出演は彼のキャリア初期以来のことですから、余計に血の滴るようなレアとも言えましょう。

 ここでデビッド・フィンチャーとケビン・スペーシーのコンビネーションと言えば、映画「セブン」"Se7en" が思いだされます。「七つの大罪」"Seven Deadly Sins" をモチーフにした猟奇殺人事件の映画が話題になったのがつい最近と思いきや、既に二十年近くも前のことでした。ケビン・スペーシーが "Se7en" の熱狂を再びという目論見(もくろみ)も見越した上で、デビッド・フィンチャーを監督に擁(よう)して連続ドラマを制作したこと自体、ケビン自身の「野望の階段」ではないのかと勘繰らせてくれます。

 このドラマが大作映画に相当する豪華な顔ぶれというだけでも十二分に惹かれるというものですが、この "House of Cards"というドラマ自体の存在には特異点と言うべき特徴があるのです。

 "House of Cards" は連続ドラマなのですが厳密にはテレビドラマとは言えず、つまりABC、CBS、NBCなどのネットワーク・テレビ局が制作したものではなく、またHBO(Home Box Office)を代表とするケーブル・テレビ局でもなく、ネットフリックス(Netflix)という会社が番組をプロデュースしたものです。

 このNetflixが何者なのかというのが焦点になりますが「レンタルDVD」の会社なのです。Netflixが創業時(1998年頃)のビジネスモデルは、観たい映画などをリクエストするとDVDの入った封筒が送られてきて(一度にDVD三枚まで借りられます)返却も郵便という仕組みです。日本のレンタルDVDもネットで借りて郵便返却というモデルは定着しているサービスですね。現在のNetflixではインターネット経由のビデオ・オン・デマンド・サービスに変貌しており、ネット配信のストリーミング・サービスで映像を鑑賞できるような形態が主体になっています。このオンライン・サービスが "Watch Instantly"という名称で開始されたのが2009年頃であり、今現在の米国ではすっかり定着している様子です。

 つまり、NetflixというレンタルDVDの会社が連続ドラマを創ったのです。しかもこのドラマの総製作費が約100億円なのだそうです。映画の世界では「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という姿勢は、黎明期から今日に至るまであまり変わっていないように見受けられます。それ故に少しでも興行の確実さを求めてヒット作の続編や二番煎じ的作品を連ねるのも映画製作会社の特性と言えるでしょう。ですが、全米最大手とはいえどもレンタルDVDの会社が100億円もの大金を投じて連続ドラマを制作するのは会社自体の存続が危うくなる訳ですし、正に社運を掛けて挑むことにならざるを得ないのは必然でありましょう。

 しかし、彼らにはリスクではなく確固たる勝算があったのです。占いなどではなく確信できる証拠を持ち得たのであり、それは他ならぬドラマ消費者からの支援だったのです。Netflixのオンライン・サービスは長年に亘り契約者であるユーザーから直接得ることができる膨大な視聴情報(ビッグデータ "Big Data")を収集しており、この宝の山(データ)を細分化し解明(解析)することで「どういう嗜好が好まれるのか?」もしくは「次に何が見たいのか?」などの近い将来のユーザー趣向の予測が概ね行えることが可能になっていたのです。

 これはテレビやラジオのように電波を使って放送する方式で無数のユーザーに一方通行で一斉同報通信する仕組みとは違い、ネットに繋がれた双方向通信可能という特性を生かして消費者個々から確実に情報を取得できることに起因します。

 このように蓄積された情報は顧客を繋ぎとめるための「レコメンデーション」"recommendation"(視聴者が次に観たいと思われるドラマや映画をお薦めする機能)に活用されています。この膨大な「顧客嗜好」の情報を基にして制作方針を決めることにより、迷うことなしに "House of Cards" の制作資金として大金を投じることが出来たのでしょう。作品のクオリティ(品質)さえ担保されればドラマがヒットすることについては、原作である英国版ドラマの状況も把握済みで膨大なデータを踏まえた綿密な調査を行った上での決定には疑いようがなかったのだろうと憶測されます。直近のNetflixでは無名の役者をキャスティングして完全オリジナルのドラマ作品の制作も開始しているのだそうです。

 外部の会社が制作したコンテンツではなく、自前でコンテンツを用意できたことはNetflixだけではなくネット配信の今後に大きく影響することでしょう。制作者に対して使用料を払って制限された枠組みで使わせて貰うのではなく、内製コンテンツを得ることで自分たちが好きなように独占して放映できることでNetflixの契約者に恩恵をもたらし、何より新規顧客開拓に貢献するのは間違いないのです。それは "House of Cards" が見たくて新たに契約する方も大勢いるであろうことからです。

 Netflixの特異な点がもう一点あります。"House of Cards" のシーズン1の全十三話を(2013年2月)一気にインターネット配信したことです。あの、連続ものであれば必ずやってくる「次回につづく」"To be continued" の文字が無いのです。「待ち遠しい」という時間の経緯を楽しめない意味では情緒が無いとも言えますが、対象者を虜にするには畳み掛けるのが最善策の場合もあります。Netflixは月額定額制なので月に何本でも観ることができることも踏まえてのこの作戦が功を奏し人気に拍車を掛けたようです。更に一年後(2014年2月)にはシーズン2も同じく全十三話を一気に配信したことから、Netflixのヘビーユーザーが更に勢いよく増えたのです。

 ところでネット配信に絡んでの話なのですが、AppleがiPhone 6の発表(2014年9月10日)と同時に話題作りのためU2の最新アルバム "Songs of Innocence"の全曲を5億人限定で無料配信したというのがニュースになりました。ちょうど今現在(9月23日の夜)、U2の"Songs of Innocence" 無料配信のテレビ・コマーシャルが放送されているのを観ました。筆者はポスト・パンク(Post Punk)時代のU2は好きですし、AppleのキャンペーンにU2という組み合わせもスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)を想い出させるものですから、ニュースを聞いて早速ダウンロードさせていただいた口なのですが、これには後日談があり、無料で配信されたのにも関わらずApple iCloudの利用者からは自動にダウンロードされてしまったため、知らないうちに勝手にライブラリに入って削除出来ないとの苦情が続出したのです。つまり、凄く良いもので、しかも無料であっても、それを要らないと思う人は少なからず存在するのです。Appleは慌てて削除ツールを提供する羽目になりました。これは消費者の好みが多様化している証拠でもある一方、有償無償にかかわらず勝手に配信されて削除が出来ないなどというユーザー自身で制御できないことには反感を抱くという結果を招いたものとも言えるでしょう。消費者が主役であることを忘れてはいけない訓戒となりました。

 それとIT業界と娯楽作品に分け隔てはなく、変わりゆくものと変わらないものを見分けることが肝要と考えます。人が「面白いものが見たい」というのは本質的であり普遍であることでしょうが、しかし人々の興味や関心、世間の流行や趣向は時代と共に変化していきます。また同時に道路の主役が馬車から自動車になり、飛行機で空を移動する、数年後にはリニアモーターカーで高速移動が可能になるなど技術の進歩による交通機関の変化は著しく、これにより輸送手段やその方法も大きく影響を受けて変容するのは必然です。写本が活版印刷となり、そして現在コンテンツがデジタル化されてデジタル・データのハイウェイが整備されるのと並行して幾つかの仕組みが備わることで遅延無く配信できるようになりつつあります(過去記事「第6回 電子書籍の名前」も併せてご覧ください)。当然、この「道」を輸送経路として使わない手はないでしょう。

 かつて栄華を極めたレコード針が瞬時に消え去った栄枯盛衰の記憶を忘れていなければ、変わりゆくものにどのように対峙し追従していくのかは、時代に取り残されないためだけではなく存在自体の意義を問う死活問題であることはご理解いただけるでしょう。

 実は、Netflixは未だ日本でサービスインしていません。ですから筆者を含め現在の日本では "House of Cards" はレンタルDVDで視聴している状況です。もうすぐ(2014年10月初旬に)日本でもシーズン2がブルーレイ/DVDの販売とレンタルがやっと開始になる予定なので心待ちにしています。この話題はまだまだ続くのですが、思いがけず長文になりました。今回はここで筆を置くこととさせていただきまして、此処(ここ)いらで例の「次回につづく」"To be continued" です。
次回予告ですが、Netflixの快進撃、インフラはアマゾン(AWS)、動画配信サービスの日本での普及、そしてサービスベンダのジレンマなどなどの話題を今回の「前編」に引き続いて次回「後編」にて取り上げるつもりでいます。

心待ちとまではいかないでしょうが、次回もお楽しみに。

 


 

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