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第81回 僕は問題ありません (藤江一博) 2018年9月

『九月になったのに』:

八月になりました。
半袖シャツで出掛けても駅に着く前に後頭部から汗が噴出してきます。
電車の中では額から滴り落ちた汗が拭えずにシャツに落ちて吸い込んでいきます。
このまま亜熱帯の夏がずっと続いていくのかな、と勝手にそう思い込んでいました。

その折、連日の酷暑が突然途絶えました。
大気中の成分濃度比率も変化して急に涼しくなってきました。
これまでの熱風舞い上がる気温差の所為でしょうが、半袖が寒いくらいです。
おまけで台風が二つも連続で上陸してきました。

「二つでじゅうぶんですよ。」

大洋ホエールズにいた平松のカミソリシュートみたいな軌道で日本列島を抉って(えぐって)通過して行きます。
空の気分が変わったのかもしれません。

八月が終っても、九月を過ぎても、十月になっても、このままずっーと、とても暑い夏が続いていくと思っていました。

少し覚悟していたのです。
ちょっと拍子抜けです。

 
 
 
 

『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』:

まだまだこのままずっぅーっと暑い日が続くのだろうと思っていた八月初旬ある休日の事です。
真夏の日差しを浴びるのを避けて涼しい部屋で読書を決め込むことにしました。

いつもそうしているように怠惰な体躯を折り畳んでから小さな硬いソファに寝転がって体勢を整えると、そこから届くテーブルに向けて手を伸ばした先にあったのは小難しい哲学や経済の書籍ではなくて、以前に買って無造作に積んだ本の山にあった「僕は問題ありません」という題名の漫画です。
指の先にあったその本を手に取り読み始めることにしました。

「僕は問題ありません」は、いくつかの読み切り短編の物語が一冊に纏められたものでした。
その一つ一つに淡い感情を抱かせる様なそんなタッチの画とお話が紡がれて、まるで一篇の詩を読んでいるような気にさせてくれます。
眩しい太陽の光がレースのカーテン越しに漏れるキラキラを浴びてソファに包まれる中で不思議な感覚を呼び覚ましてくれる、そんな詩です。
それら一篇の詩が並列に重なり合って一つの世界を醸し出しています。

漫画本の作者は「宮崎夏次系」"Miyazaki Natsujikei" という方です。
「僕は問題ありません」は何度も反芻しながら読み返しました。
読み終わると続いて同じ本の山にあった宮崎夏次系の作品「変身のニュース」を手に取り読み始めていました。
夏次系ワールドに空間が歪められていく感覚に陥ります。

その「変身のニュース」を読んでいるうちに、木洩れ日が差し込む網膜の奥底を次第に薄い雲で覆われ始めると意識が遠のいて何時しか浅い眠りに就いていました。
体躯と脳味噌が休息を求める生理的欲求行動は「眠りの森」と呼ばれており、この自然現象によって居間にある狭いソファに蹲る(うずくまる)動物が一匹いるのは、いつもと同じ休日の風景です。

 
 
 
 

『夕方までに帰るよ』:

好奇心はまだ少し残っていて立ち入ったことが無いお店に興味を持つことはあります。
でも、ふらっと良く行くお店は割と決まっています。
それは気分にも拠ります。

スーパーマーケットや飲食店、レコード屋さん、レンタルショップ、ジーンズショップ、百貨店、そして本屋さん。

良く立ち寄るお店の一つに、落ち着きのない子供の散らかった部屋を彷彿とさせるような無造作に雑貨や漫画が所狭しと三次元空間を埋めつくす窮屈な佇まいで陳列されている変わったお店「ヴィレヴァン(ヴィレッジヴァンガード)」"Village Vanguard" が、自分の部屋と酷似しているのでとても落ち着きます。
小学校六年間、「落ち着きがない」と通信簿に書かれた傷だらけの少年が俺(筆者)です。

その「ヴィレヴァン」は名古屋が発祥らしいですが、彼方此方の街にお店があって吉祥寺や三軒茶屋、立川の店舗に吸い寄せられては、陳列されている商品に筆者は紛れ込んでいます。故郷の旭川市にも店舗があって帰省したときもたまにヴィレヴァンに埋没されに行きます。

確か先々月のとある日、吉祥寺ロフトにあるヴィレヴァンに立ち寄った時に「宮崎夏次系」コーナーというのがあって、陳列している漫画の何故か惹きつける絵柄の表紙と詩的で気になるタイトルに負けて購入しました。
購入したのは、「変身のニュース」と「僕は問題ありません」の二冊です。

不勉強でヴィレヴァンで出逢うまでは「宮崎夏次系」という作家さんを全く知らなかったですが、購入してから大分時間が経ってからですが、彼が描いた漫画を眩しい日差しを避けてソファに寝転がって読み始めることにしました。

 
 
 
 

『変身のニュース』:

しばしば立ち寄る訳ではなく偶にしか行かないんだけど、必要不可欠なお店があります。
それが、CDレンタルショップの「ジャニス」"Janis" です。
メジャーだけでなくインディーレーベルや廃盤も取り揃えた雑多で豊富な品揃えは我々の欲求を満たしてくれます。
直人に教えて貰ったお店です。
仕事帰りに音楽好きな仲間と連んで(つるんで)「ジャニス」を目指すのを楽しみにしていました。
お店に着くと皆がばらばらに散策して無言で一頻り(ひとしきり)無数の棚をまさぐり自分だけ財宝を発掘します。
金鉱でのお宝探しの後に、レモンホッピーを呑みながら四方山(よまやま)音楽談義を洒落込む(しゃれこむ)というのが、ささやかながらも生きる糧として大事な欠かせないワンピースです。
その「ジャニス」"Janis" が閉店するというニュースが飛び込んできました。
ショックを隠しきれません。

 
 
 
 

『ホーリータウン』:

プログラマの心構えというか、こうあるべきという態度というのがあるのをご存知かもしれません。

「プログラマの三大美徳」"three great virtues of a programmer" と題されたもので、「怠慢」"Laziness"、「短気」"Impatience"、「傲慢」"Hubris" の三つで構成されています。説明された文章を見つけました。

1. Laziness: The quality that makes you go to great effort to reduce overall energy expenditure. It makes you write labor-saving programs that other people will find useful and document what you wrote so you don't have to answer so many questions about it.

2. Impatience: The anger you feel when the computer is being lazy. This makes you write programs that don't just react to your needs, but actually anticipate them. Or at least pretend to.

3. Hubris: The quality that makes you write (and maintain) programs that other people won't want to say bad things about.

おまけで拙作の意訳をしてみましたので付記しておきます。

1. 怠惰:面倒な作業による浪費を減らすために多大な努力を惜しまないこと。その努力の成果は、他の方にも等しく有用であり隷属的な作業の労苦から解放されるような品質を目指します。そして、そのプログラムについて文書化しておいてその利用方法について説明不要なプログラムを創りましょう。

2. 短気:コンピュータが怠けていると感じたら怒りの感情を露にしましょう。この感情によって必要とする反応速度を満たすようなプログラムを書こうとするでしょう。これに留まらず、実際に予測を行う(少なくとも予測するフリをする)プログラムまでも書く気概を得ることになるでしょう。

3. 傲慢:文句のつけようがないほど素晴らしい品質のプログラムを書きましょう。そしてプログラムをメインテナンスしましょう。

「怠慢」"Laziness"、「短気」"Impatience"、「傲慢」"Hubris"、三つ纏めると (L-I-H) となります(なんと呼ぶかは不明です)が、この三つの単語(格言)は「プログラマ(自分)が、コンピュータ(機械)」に対して取るべき姿勢です。

「あぁ、要するに『自己中』"Egocentrism" に振る舞えば良いのか。」と曲解してはいけません。

単語が意味するのは、誰に対しての姿勢なのかをちゃんと汲み取れば、かなり難易度が高くスキルを有して鍛錬を絶え間なくしていても、この行動を日常で励行するのは実現が難しい態度であることが分かるはずです。
とても楽な姿勢に思えますがそうではないのです。

この「プログラマの三大美徳」は、プログラミング言語 "Perl" を開発した御大で「慈悲深き終身独裁者」"Benevolent Dictator For Life; BDFL" の「ラリー・ウォール」"Larry Wall" によって提唱されています。

因みに「慈悲深き終身独裁者」"Benevolent Dictator For Life; BDFL" とは、オープンソースソフトウェア開発者の僅かな人にだけ与えられる称号であり、「グイド・ヴァンロッサム」"Guido van Rossum" を筆頭に「リーナス・トーバルズ」"Linus Torvalds"、「まつもとゆきひろ」 "Yukihiro Matsumoto; Matz" といった錚錚たる創造主が名を連ねます。

 
 
 
 

『わかってもらえるさ』:

先ほどの「三大美徳」と対となる様な三つの単語が別にあります。
恰も(あたかも)「美徳」を補完する様相を呈した「気持ち」を表現したような単語です。

「謙虚」 "Humility"、「尊敬」 "Respect"、「信頼」 "Trust" の三つです。

こちらの三つの単語(格言)は、「プログラマ(自分)が、プログラマ(同僚)」に対して取るべき姿勢として記されています。
「謙虚」 "Humility"、「尊敬」 "Respect"、「信頼」 "Trust"、の三つを纏めると (H-R-T) となります。これは「ハート」"HRT" と呼称するのだそうです。まさに「こころ(気持ち)」です。

この単語が登場するのは「Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか」という書籍です。
二人のGoogleのエンジニアによって執筆された本書は、タイトル通り「チーム」を成功に導くための指針の様子です(筆者は不勉強で未読です)。

人が三人集まると社会が出来てしまいますから、どんなチームでも円滑に目的に向かって突き進むには潤滑油が必要であると思っていました。
この潤滑油の成分は「気持ち」だと考えていたことを、この三つの単語が裏付けしてくれているような気がします。

世間を見渡すとこの「ハート」"HRT" が、皆足りていないのかもしれません。

そしてなにより自分自身が戒めとして毎朝「実るほど頭を垂れる稲穂かな(尊大になるなかれ、謙虚たれ)」を訓戒として唱えていますが、未熟な筆者はこれだけを実践するだけで四苦八苦しています。

人として完成してないので三つとも完璧に実践出来ないとしても、意識するだけで行動に違いが出るかもしれません。これからスローガンを増やします。
機会があればとなりますが、どうやら本書を読む必要がありそうです。

 
 
 
 

『よごれた顔でこんにちは』:

まだ暑くなる前で確か三か月位前だったと思います。
夕刻から夜に遷り変る頃合い、辺りが薄暗くなってきた時間帯の話です。

最寄り駅に着いて駅前のスーパーマーケットで夕食の買い物を済ませた帰路の途中、ふと街路樹の袂(たもと)に目をやると何かがいるのを見つけました。

木の根元をよく見ると雀(スズメ)がひっくり返っていました。
仰向けにひっくり返って白い腹を見せていたので最初は何が居るのか分からなかったんですが、良くみて鳥かもと、更に近寄って雀だと認識しました。
仰向けで腹を見せているので、どうせ虫の息だろうと思いそのまま通り過ぎて行きました。
気にはなりましたが、生死を確かめることはしませんでした。

帰宅して買ってきた食材で調理を済ませると夕食を頂きました。
空腹を満たして欲求と補給を済ませたら、風呂入って寝ようと思っていました。
でも、やっぱり気になります。

結局、さっきの場所に戻ることにしました。
二、三時間が経過して辺りは深夜の帳が覆い尽くしてしまう少し前の暗闇に包まれていました。
懐中電灯を照らして街路樹の根元を探し始めるとさっきの雀がまだそこに居ました。
まだ、子供の雀みたいです。
恐る恐るお腹を触れると小さな鼓動を感じます。
心臓が動いていて息はしている様です。
まだ、生きています。
タオルで包んで家に連れ帰ることしました。

家に帰ると靴の空き箱にタオルを敷いてそこに雀の子を入れました。
仰向けになっていたので、朝まで持たないのかなとは思っていました。
深夜、箱の中を覗くと少し居る位置が変わっていました。
まだ息はあるみたいです。
夜が明けて朝になってもそのままの様子です。
何も口にしていません。
朝まで生きていたのが不思議なくらいです。
長くはないのかなとそんなことを思い巡らせていました。
ところが、日中頃には急にむっくりと起き上がりました。
靴箱の中でちゃんと起き上がり通常の姿勢をとる様になりました。
水に浸した綿棒を嘴(くちばし)の端から差し出すと少し舐めるようになりました。
餌を買ってきましたが、食べようとしません。
滋養が必要だろうと思い、蜂蜜をとかした水を綿棒で与えることにしました。
もしかするとまだいけるのかもしれない。

翌々日の朝になると急速に回復の兆しを見せます。
朝には箱から出ようとして上にかけていた手拭いを頭に載せて顔を出していました。
風呂上がりの親爺のようです。
蜂蜜水を舐めると、そのままの余勢で羽ばたき始めると部屋を飛び回り出しました。
狭い部屋の彼方此方を飛び回って台所にある冷蔵庫や電子レンジに停まります。
まだ上手に飛べない様子で壁にぶつかって怪我してしまいそうです。
そうしているうちに、何度か窓に向かって飛び出し始めます。
外の空気を感じたのか窓に向かって行こうとします。
半分開けた窓の外側にある網戸に掴まりました。
そこで外の匂いを嗅いでいるように見えました。
一鳴きすると雀が引き返して部屋の奥に戻りました。
「ここから出たいんだ。」と意思表示しているみたいです。
もう、雀の子は元気になったのだと理解して外界との境界を遮断している窓と網戸を開けました。

そうすると、雀は部屋の奥から窓をくぐって外に飛び出して行きました。
飛び出したその勢いは長く続かず、傍の高い木の上に一度停まりました。
シャバの空気を大きく吸い込んで深呼吸してから、今度は大きく羽ばたき始めました。
そうして青く澄み切った空の濃い青色の方向を目指して飛んで行きました。
飛んでいる雀が見えなくなるまで少しの時間だけ、その青色の方向を眺めていました。

 
 
 

『もっとおちついて』:

僕ら何も間違っていない。
気の合う友達ってたくさんいるのさ。
街ですれ違っただけで分かるようになるよ。

忌野清志郎(いまわのきよしろう)の甲高く消え入りそうで繊細な「聲」(こえ)が、「そうだよね」と頷いて共感した心(こころ)に深く突き刺さります。

台風が通り過ぎていきました。
茹だる様な暑さが戻ってきました。
聳え立つ積乱雲と鳴り響く雷雨も引き連れてきました。
引き続き台風は続々とやって来ます。
当分、暑い日が続くみたいです。

 
 
 

次回をお楽しみに。

 


 

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