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第72回  ダダロマ (藤江一博) 2017年10月

ある朝、普段とは違う見知らぬ電車に乗っていました。

混雑した車内を見渡すと大きなリュック抱えたおじいさん、座席で爆睡する女性、物見遊山の外国人観光客、そして出社を急ぐ会社員たち。

乗り合わせたバラエティに富んだ方々に紛れて自分も所在無げにそこにいました。その走る電車の中でこれも普段とは違った柔らかい感触の車両の揺れに身を任せながら、ぼんやりと目的地を目指していました。

乗っていた車両がゆっくりとカーブを描いた軌道を描いたらしく横への引力を感じたその時、ふと窓の外に目を向けると水の上に立ったビル群というちょっと不思議な景色が見えてきました。

乗っている電車はゆりかもめです。ゆりかもめは新橋からお台場を経由して豊洲へと繋ぐ高架路線をタイヤで走る変わった電車でモノレールに似た列車です。

その道中に芝浦埠頭とお台場海浜公園の駅の間でぐるっと一回転することでレインボーブリッッジの高さまで登って進みます。

丁度三百六十度、回転しながら窓から眺望できる視界には鉄骨とワイヤーによる幾何学模様で区切られた「キュビスム」"Cubisme" を想起させる鋭角に切り取られた景色に現れる東京湾の上に立ち並んだ様々な建造物を眺めているうちに「ダダイスム」"Dadaïsme" の如く混濁した思考が一周回って堂々巡りしている感触に良く似ていると気づきました。

もし、いつもの思考パターンと同じならこの電車は目的地には到底到着しないのだろうとそんな気もしてきたのです。

 

『閉じ込め症候群』:

自分の中で思考がループする。

筆者の場合、思考の反復は他愛もないただの堂々巡りに過ぎないのですが、もっと深刻な事態があることを知りました。

それは意識と感覚は正常なのに全く体が動かせない「閉じ込め症候群」"locked-in syndrome" という病気です。
様々な原因で罹患(りかん)するのだそうですが、「筋萎縮性側索硬化症」"Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS" や脳梗塞が引き起こす脳へのダメージなどでこの疾患が発症するのだそうです。
(過去の拙作コラム『第53回 我時想う愛』もご覧ください。)

 

患者さんは意識があります。眼も開いて見ることも出来ます。ですが四肢は動かず、声を発することも出来ず、外界と完全に隔離されてしまうという状況に陥るのだそうです。

外界と隔離されるというのは意思疎通を図ることが全く出来ずに何一つ伝えることが出来ない状況です。
「美味しい」や「嬉しい」という感情だけでなく「生きている」と伝えることすらもできないのです。
外の世界に自分の声は届かず、自分の中だけで思考が巡るだけの行き場のない所業は想像すら超越した辛さです。

そしてこの辛い仕打ちは患者さん本人だけでなく、彼らを見つめる家族にも伝播するのです。
何をして欲しいのかを察することが出来ない無力感に苛まれると感じることができます。

 

この病気を知って意識が伝達できない障害があると人としての根本が崩れてしまうように思えました。
他人と共感し合ってこそ自分の存在を確かめることが出来る、自分はここにいると表現できるのが原始的な欲求であると改めて気が付きました。コミュニケーションこそが人として形作っている要素なのだと感じたのです。

朗報があります。この疾患に技術で解決の糸口を見出そうという取り組みが為されているのです。

この「ブレイン・マシン・インターフェイス」"Brain-machine Interface, BMI"とカテゴリされている研究は、脳と情報通信機器を直接繋ぐ試みです。脳波などの微弱な信号を検出し情報機器を介してフィルタし解析することで精度の高いものにするといった試みの総称です。映画「マトリックス」(The Matrix) で首の裏側にケーブルをジャックインされる様を想像してしまいますが、そんなに武骨な代物ではないみたいです。

その中の一つにセンサー技術を駆使して脳内の血中酸素濃度と電気的活動の変化を測定することで患者さんの意思を汲み取るのです。患者さんに投げかけた質問の反応をサルベージした情報から「ハイ」と「イイエ」を判別することを試行して意志の疎通を図ります。

この試行の結果、患者さんは「生きていることが嬉しい」と伝えることができたのだそうです。
患者を見守るご家族の喜びは計り知れないものであろうことは想像に難くないです。

「はい」と「いいえ」。

それを伝えるだけで幸せが得られることを知りました。

 

『ダダロマ』:

吹き溜まりに濁った水が停滞し陰鬱な雨空が広がって不機嫌な空気が蔓延すれば鬱屈した気分を打破するべく胎動するのは道理です。

押し込められた天井が下がって来るストロークが深い程に反駁する力が比例して大きくなるのは物理法則です。

自らを取り巻く凝り固まった殻を破壊しようと攻撃しようとするのは自由を求める自然な感情です。

たった一人で声を上げたことが切欠で小さな声か集まって合唱になりそこで音頭を取れば盆踊りの様相を成して円陣を組んで皆で踊りはじめることでしょう。

弾圧された状況を打破する、既成の概念を覆す、新たな地平を創出する、各々の欲求を満たすために看板として掲げたお題目です。

小さい諍いから大きな運動までそれらすべてを知る由は無い程に数え切れないほどの運動が過去を顧みるとあることでしょう。

「ダダイスム」"Dadaïsme" もそんな抵抗運動の一つです。芸術思想としての「ダダ」は退廃した世界を嘆き「虚無」を根にして既成の概念を攻撃するという特徴を持っていました。

殻を破ることに異議を唱えるものではありませんが、出来れば華麗にしたいものです。

攻撃するのであってもスマートさが欲しいものです。
対象への愛情からの行動であって欲しいものです。
破壊は目的ではなく単なる経緯であり、新しい何かを創造するのを目指して欲しいのです。
その創造のために邪魔なものを払拭するのです。

「ダダイスム」"Dadaïsme" で「ロマンティック」"Romantique" そんな感触が良い塩梅でしょう。

その二つの単語「ダダイスム」"Dadaïsme" と「ロマンティック」"Romantique" を「かばん語」"portmanteau" として混成した名称と憶測させる「ダダロマ」(DADAROMA) を冠した日本のロックバンドがあります。

ダダロマが醸し出す楽曲は一聴すると攻撃的な感触がします。
何回も聴いてみるとそこには、ちょっと刺激的な歌詞とメロディアスな楽曲で感情を爆発させたサウンドは琴線に触れる感触があります。

ダダロマの最近リリースされたシングルに「ポルノグラフ」"pornograph" という曲があります。この楽曲では余計なものが多すぎて素直に触れ合えないと嘆くコミュニケーションが阻害されている現実を憂う想いを綴った内容が唄われています。この曲にはヘビーローテーションとなる中毒性が確実にあります。機会があれば聴いてみてください。

 

『機械の身体』:

人としてこの世に存在出来る時間は短いです。

個として単体の存在を考えるのでは虚しいです。

見方を変えて大きな織物のようにその営みの中で紡いでいる「ひと針」だと考えることが出来ればもう少し個としての存在の意義を感じることが出来るかもしれません。

短いサイクルと短いサイクルで繰り返されるイテレーションを紡ぐことで長尺のスパンでの大きな円を描くのだと想像します。

その大きなサイクルの中で小さい円を自分が描きたいのです。線でなくても点で構いません。

何か残したいと渇望するのは生命を宿すものにとって生理的な欲求です。
自然とその欲求を順当に満たすことを営々と重ねることで必然として各々が未来に向けて生きて行くことになりそうです。
延いては、今日よりも良い明日が来るのかもしれないと夢想します。

そのためには日々戦い続けるのが個としての営みであり人生なのかもしれません。
ですが、現在は暗闇の中で孤独に闘っている人達が居ることを知りました。

今現在、この時にも誰も行くことが出来ない見知らぬ場所に独り立ちすくみ巨大な闇と対峙している人がいるのかもしれない、そう考えると何も辛くはないと思えるような気がします。

不器用でも意志を表すことは出来る筈です。
その返答を得て誰かと繋がることで幸せを感じることが出来るのだと考えるからです。

 

次回をお楽しみに。

 


 

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