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第49回 エンタープライズ企業にOpenStackは使いこなせるのか? (中井悦司) 2014年8月

はじめに

 最近、企業向けのセミナーでOpenStackについての講演をする機会が増えてきました。以前は、OpenStackの話をするのはエンジニア向けの勉強会が中心で、その内容も技術解説がほとんどでした。一方、企業向けのセミナーでは、「そもそもOpenStackって何をするソフトウェアなの?」という所から解説を求められることがよくあります。もちろん、マルチテナント型でセルフサービスのIaaS(Infrastructure as a Service)環境を提供することがOpenStackの役割ですが、「このようなIaaS環境を何のために使うのか」という点の理解が難しいこともあるようです。

 OpenStackの開発コミュニティでもこの点には気づいているようで、最近は、OpenStack FoundationのWebサイトで、さまざまなユーザー事例が紹介されるようになりました[1]。今回は、これらの事例の中から、セミナーの講演で筆者が好んで取り上げている事例を紹介したいと思います。

OpenStackでIT資源をエンドユーザーに開放

 IaaS環境の分かりやすい利用例としては、マルチテナントとセルフサービスという特徴を活かして、エンドユーザーが自由に仮想マシンを利用できる環境を提供するパターンがあります。米国の某国家機関の事例では、暗号解読などの高度な情報処理の研究に大量のサーバー資源を必要としていたものの、研究者の要望に応じて、タイムリーにサーバーを提供することができないという問題があったそうです。そこで、試しにOpenStackのIaaS環境を用意して、研究者が自由に仮想マシンを使えるようにした所、またたく間にフル稼働するようになったそうです。

 これは、多数のアプリケーション開発プロジェクトを抱える企業にも適用できる利用パターンではないでしょうか。現状では、開発プロジェクトごとに開発計画書を出して、開発環境の利用申請を行うような企業も多いかも知れません。そこで、OpenStackのIaaS環境を用意して、各プロジェクトのメンバーが自由に仮想マシンを起動できるようにしておきます。開発チームの生産性が向上するのはもちろん、今まで、利用申請を元にして、仮想マシンを用意していたシステム管理者にとっても仕事を減らすことが可能です。

スケールアウト型のアプリケーションを企業内で活用

 IaaS環境は、もともとは、パブリッククラウドのサービスとして利用が広がりました。AWSに代表される大規模なパブリッククラウドでは、仮想化基盤を操作するAPIを提供することで、大量の仮想マシンからなるアプリケーション環境を自動構築することが可能になっています。これは、ソーシャルネットワークやオンラインゲームなど、多数の仮想マシンで負荷分散するタイプのアプリケーションの利用には必須の要件と言えるでしょう。

 一方、最近では、一般企業でもこのような負荷分散タイプのアプリケーションを使用するケースが生まれてきました。米Bloomberg社の証券情報分析システムの事例などは典型例かも知れません。あるいは、米国のケーブルテレビ局であるComcast社では、各家庭のセットトップボックスの番組検索機能のバックエンドして、自社内のOpenStackによるクラウド環境を利用しているそうです。事例紹介の動画では、YouTubeの動画検索のような感覚で、ケーブルテレビの番組を検索するデモが紹介されています。

 このような使い方を必要とする企業は、まだ多くはないでしょうが、将来的にスケールアウト型のアプリケーションが必要な場面は確実に増えてくるでしょう。OpenStackの自動化機能を前提とした、OpenStack専用アプリケーションの開発は、それ自体が面白い研究テーマと言えるかもしれません。

OpenStackが必要だった本当の理由

 最後に、最近、私が特に気に入っているのが米Walt Disney社の事例です。ここでは、社内ITの標準インフラとしてOpenStackを活用しているそうですが、OpenStackを導入した目的は、「コンシューマー向けのITサービスと同じスピード感で、社内ITサービスを提供すること」だと言っています。現在、インターネット上のサービスを個人で利用するのはとても簡単です。ボタンひとつで便利なサービスをすぐに利用することが可能です。「社内のITシステムが、それと同じスピード感で使えないのは間違っている」 ―― そんな考え方でOpenStackの導入を決断したそうです。ちなみに、この事例紹介の動画では、図1のスライドが紹介されています(日本語キャプチャーは筆者が追加)。

fig01

図1 クラウドが提供するメリットの誤解

 これまで、クラウドが提供するメリットとして、「Good/Cheap/Fast(良い物を安く速く提供する)」が取り上げられることがよくありましたが、Walt Disney社がOpenStackを導入した理由は、あくまで、「Fast/Fast/Fast(速く、速く、速く)」だと言うのです。社内ITサービスをとにかく迅速化することで業務効率を上げて、最終的な結果として、良い物を安く顧客に提供するのだと説明しています。

次回予告

 今回紹介した事例から分かることは、OpenStackのIaaS環境は、既存のITシステムの単純な代替ではないということです。今まで出来ていなかった新しいインフラの使い方、これを実現するのがOpenStackです。そのためには、業務プロセスそのものの変革を伴う必要があります。Walt Disney社の事例は、むしろ、業務プロセスを効率化すること自体を目的としていると考えることもできるでしょう。

 残念な事に、日本では、エンタープライズと呼ばれる大企業になるほど、古くからある既存業務プロセスの変更が難しいという話を聞くこともあります。「OpenStackは一般企業でも使えるレベルに成熟したのか」という話題を耳にすることもありますが、一般企業がOpenStackを活用するために必要なのは、実は、企業自身の変革なのかも知れません。

 それでは、次回もまた、「OpenStackの利用方法」について話題をお届けしたいと思います。

参考資料

(*1) 「OpenStack User Stories

 

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このコラムでLinuxや周辺技術の技術概要や面白さが理解できたのではないかと思います。興味と面白さを仕事に変えるには、チューニングやトラブルシューティングの方法を実機を使用して多角的に学ぶことが有効であると考えます。CTC教育サービスでは、Linuxに関する実践力を鍛えられるコースを多数提供しています。興味がある方は以下のページもご覧ください。
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