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第24回 要素還元主義とデータサイエンス (辻真吾) 2022年10月

はじめに

最近は先の見通せない時代だとよく言われます。先が見通せた時代があったのか?という疑問もありますが、そんな世の中にもデータサイエンスが役に立つかもしれません。今回は要素還元主義とデータサイエンスというタイトルでいろいろ考えていきたいと思います。

要素還元主義

20世紀から21世紀にかけて、人類の科学技術レベルはかなり進化しました。大規模な発電所と送電網、飛行機や自動車といった移動手段、さらにはコンピュータと情報通信ネットワーク、どれをとっても地球上の他の生物種とは比較にならないレベルです。こうした高度な技術の発展は、科学の進歩に支えられています。何世紀にもわたって科学は進化し続けています。現代科学の発展を支える方法論の1つに要素還元主義があります。要素還元主義、字面だけでも十分小難しいので、おおざっぱなイメージを掴む戦略で行きたいと思います。要素還元主義は、ものごとをうまく要素に分解すれば、それぞれは単純な原理で動いているはずなので、そこを突き詰めれば何でも理解できるという考え方です。「まあそうなんじゃないか」という気もします。実際、モノは何からできているのかを追究した結果、すべてのモノは原子からできていることがわかったわけです。仕組みがわかると新しい技術に使えます。原子レベルの反応は、すでに核分裂反応として実社会に応用されています。医学においても要素還元主義的な考え方は主流です。20世紀のはじめまでは、大きな怪我をしてそこから細菌が入り込むと、それが原因で運悪く死亡するということはよくあることでした。なぜそんなことが起こるのかを突き詰めた結果、どうやら細菌が原因だとわかったわけです。実際に細菌だけを死滅できる抗生物質が発見されると、劇的な効果を発揮します。今では怪我の傷口が化膿して死亡するということは、最低限の医療体制が整っている地域では稀な事象になりました。

要素還元主義の限界

現代の我々に豊かな暮らしをもたらしてくれた要素還元主義ですが、そろそろ限界なんじゃないかという意見があります。20世紀に細菌感染による死亡をほとんど克服できた医学も、がんによる死亡を劇的に減らす治療法をまだ確立できていません。これはがんという病気の進展に、さまざまな要素が複雑に関係しているためだと考えられています。そもそも正常だった細胞が何らかの理由で暴走し、増えてはいけないところで細胞分裂を繰り返します。その場所にとどまってくれていればただのコブですが、あまりに増えすぎると細胞自身の居心地が悪くなり、別の場所に向かって動き出します。カラダの免疫細胞も黙って見ているわけにはいきません。「おいおい君はもともと大腸に居た者じゃないか?」という感じかどうかわかりませんが、免疫細胞に異物と見なされれば攻撃されます。がん細胞も狡猾ですので「いえいえ、やめてくださいよ。私はちょっと散歩に出ただけです」とは言わないと思いますが、免疫細胞を騙して肝臓への旅を成功させる輩が現れたりするわけです。全体としてかなり複雑です。がんの細胞の増殖を抑える薬、免疫細胞が騙されないようにする薬など、それぞれの要素ごとには研究が進んでいます。ただ、細胞全体の動きを把握するのはほとんど不可能なので、どうしても治療がうまく行かない事例が残ってしまうのではないかと思われます。

データサイエンスの役割

要素還元主義的な考え方で発展してきた科学にもデータは必要でした。物理学の法則は、実験データをうまく説明できる数学の式なので、もちろんデータは必須です。実験データに誤差やミスが含まれていたかもしれませんが、天才的な物理学者たちはそこから自然を支配する法則を見抜いてきました。残念ながらもうこのやり方は通用しそうにありません。物理学や生物学など科学の諸分野では、1回の実験で出てくるデータの量が半端な量ではなくなりつつあります。科学の分野だけではありません。ビジネスの領域でも同じことが言えそうです。たとえば消費者のWebサイト内での行動履歴などは、細かくデータをとることが可能です。いずれにしても1人の人間が生データを見て、何かを思い付けるような分量ではありません。ここから有用な知識を抽出し、科学の発展やビジネスの拡大に繋げるには、データサイエンスが必須です。次元削減でデータの全体像を把握する。クラスタリングで特徴的なグループを見つける。目的変数が決まっていれば予測精度の高いモデルを作る。どれもコンピュータを使ったデータサイエンスの典型的な仕事で、こうした処理を通じてはじめて膨大なデータを活用することが可能になります。データサイエンス自体の進化もまだまだこれから必要ですが、データサイエンスなしには要素還元主義の限界を乗り越えることはできないと考えられます。

考え方の転換

これまでの科学技術を支えてきた要素還元主義の考え方は限界に来ていて、これを乗り越えるためにはデータサイエンスが必須という問題提起をしました。システム科学や複雑系といったキーワードに言及していないので、まだまだ議論の余地は十分あります。ただ、現代社会が抱えるさまざまな問題は、複数の要素が複雑に関係し合ってできており、要素還元主義的な考え方では解決しそうにありません。また一方で、要素還元主義にはこれまでの輝かしい成功があるので、多くの人々はこの考え方にどっぷり首まで浸かっています。もしこのことについて今まであまり考えたことがなかったら、ぜひ視点をすこし変えてみてください。要素還元主義的ではない視点を持つ人が増えれば、人類にはさらなる発展のチャンスがあると思っています。もちろん、そこにはデータサイエンスが必須です。
最後になりましたが、今回はちょっと難しいテーマに取り組みすぎたかなと思ってきました。そもそもこのコラム、Pythonの技術情報を扱うことが主眼だったことを思いだしたので、次回はもう少し地に足の着いた技術的な話題にしたいと思います。

 


 

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