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第75回 帰ってきたワイアード (藤江一博) 2018年1月

『灰色の研究』:

年の瀬も押し迫っていた頃、明度が高い灰色であるシルバーグレイの封書が届きました。
送られてきた封筒の色味でどこから届いたものかは直ぐにわかりました。
開封した中には印刷された紙が三つ折りに畳まれています。
そこには、
「雑誌『WIRED』日本版刊行未定による定期購読ご解約に関するお知らせ」
と題した文面が綴られていました。
印刷された文面は割りと素っ気無くそして一読で判別できるように簡潔に書かれていました。

「雑誌『WIRED』日本版は、今後の刊行が未定のため、VOL.30(2017年12月9日発売)をもって定期購読を終了させていただくこととなりました。
定期購読にてご購読中の皆様には、突然のご案内にてご迷惑をおかけすることとなりましたこと、深くお詫び申し上げます。
また、これまでご支援を賜りましたことに深く、感謝申し上げます。」

前述の申し送りに続いてには「定期購読のご解約について」タイトルに続いて更に事務的な箇条書きが羅列されています。
前払いした定期購読料の残りはちゃんと返金しますのでご安心くださいと言うことらしいです。

 

『スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス』:

実は前回の案内で年間6回の発行から4回発行に変更する旨のお知らせがあったばかりでしたのでまた何か変更があったのだろうとは思っていたのですが、休刊のお知らせだとは思いませんでした。

休刊の経緯ですが現在の編集長である若林恵が解任されて雑誌も再び休刊の憂き目に遭うことになったということらしいです。
そして若林恵が編集長を何故辞めるかの理由ですが、どうやら癇癪を起こした事らしいのです。
出版社に於ける編集部の役割は仕入れが本来の仕事である筈なのに会社が「売る話」しかしない事が癇癪の原因らしいです。みんな「出口」の話しかしてなくて肝心の「入口」の話をしないことに、どうやら御立腹されたらしいです。

この顛末については全て若林恵編集長へのインタビュー形式で「WIRED.jp」で公開されています。
公開文書はクリエイティブ・コモンズにより全文が転載出来るようになっていて、各所で取り上げられて掲載されていますので休刊に至る経緯となった編集長の体躯の底から溢れ出て吐き出さずにはいられないマッハな想いが感じることが出来る構成になっています。

筆者はこのインタビューを読んで共感出来る部分も多くありました。その反面でご高説であるものの頷けない箇所もありました。知らない単語や固有名詞が感銘する個数を大きく上回るほどにたくさんありました。

皆さんもご興味があれば公開されている記事を御覧になってみてください。それは、この休刊への顛末で編集長が唱える異議やクオリティの高い「いいもの」を創りたいという熱い想いと一風変わった独特なアプローチを垣間見てお知りになりたいというご興味です。

 

『スペック祭り』:

年末年始恒例となりつつあるのですが、筆者は一年の疲れが年末にどっと押し寄せて大晦日を前にして風邪をひいて寝込んでしまいました。
鼻水が止まらなくて咳き込んで軽い悪寒を抱えた気だるい体躯を引きずって初詣には何とか御参りすることは出来たのですが、一年の計であるお正月を今年もほとんど寝正月で無為に過ごしてしまうのかとガッカリして気落ちしていまいそうなその時に気付いた事がありました。

そんな寝たきりの筆者でも、その手にはファイヤースティックがあるではありませんか(前回コラム『第74回 ドキュメンタル』を併せてご参照ください)。
そこで右手に握ったファイヤースティックを天に向けて高く突き上げて「ファイヤー」と叫びました。

年末年始を「スペック祭り」で過ごしてしまいました。
他言無用で「ケイゾク祭り」も継続していまいました。

「スペック」とは、2010年に放映されたTBSの連続ドラマで「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」という長い番組名です。

戸田恵梨香が扮するずぼらで大食漢の上に頭脳明晰でスペック(超能力)持ちの「当麻紗綾」(とうまさや)と特殊部隊から左遷された坊主頭で筋肉バカの堅物を加瀬亮が演じる「瀬文焚流」(せぶみたける)の凸凹コンビが活躍するという刑事ドラマと超能力ものをミクスチャーしたドラマです。

番組放送していた当時もちょっと気になったこともあって、何度か番組を断片的に見た記憶があったので、レコメンデーションエンジンがお薦めしてくる中にこの「SPEC」を見つけてしまったことが災いして「スペック祭り」が始まってしまい一気に観続けてしまいました。関連するスピンオフ作品や映画版も全て視聴してしまいました。

更には遡って元ネタというか製作スタッフの多くが参加していた1999年放映の「ケイゾク」も全視聴完了しました。「ゴリさん」こと「竜雷太」は両作品に出演しています。ケイゾク映画版はまだ視聴途中ですのでこれは継続したいと思っています。

「SPEC」については、どうやら関連作品が製作中だそうで「SICK'S 恕乃抄〜内閣情報調査室特務事項専従係事件簿〜」という番組名でスペックのスピンオフ作品になるそうです。こちらは配信限定で「Paravi」(パラビ)という新進気鋭のネット配信会社が四月からオリジナルコンテンツで配信予定だそうです。

そんなこんなでファイヤースティックのお陰でほんとに視聴がエンドレスになってしまっています。視聴時間が継続することで睡眠時間が削られている状態です。睡眠不足です。

視聴が止められないのは、音声検索がとても便利で番組名のキーワードさえ思い出せれば簡単に探し出せるのです。大量にコンテンツがあっても探し出せなければ存在しないのと一緒です。簡単に探せることは、コンテンツの充実と共に最重要事項です。

昔観たおぼろげに記憶している過去の作品を音声検索で探し出せることで、改めて纏めて視聴してじっくり懐古が出来るのです。それだけに留まらず、コンテンツ視聴を重ねる度に精度を増してどんどんお薦めされます。
観ている作品に関連した知らない作品までが次々に出てくるので末広がりに興味が広がって霧散しては回帰してといった興味と関心と集約の無意味な反復運動を繰り返して無限ループに陥っています。

余生は「ファイヤースティック」"Amazon Fire TV Stick" さえあれば欲求は満たされるのではないかとまで錯覚してしまいそうです。

 

『帰ってきたウルトラマン』:

「スペック祭り」が終了して「ケイゾク祭り」が概ね終了する頃には年始の休暇も終りを告げていました。
それ故に視聴時間には制約が出来たためファイヤースティックで一気に連続ドラマを観続けることが出来なくなりましたが、現在は断片的に「帰ってきたウルトラマン」を視聴しています。

「帰ってきたウルトラマン」は1971年(昭和46年)から放映されたテレビ番組です。
当時、少年だった筆者は、円谷プロがやっと待ち焦がれた「空想特撮シリーズ」を復活させてくれたことに歓喜しました。本当に「帰ってきた」のです。

「帰ってきたウルトラマン」(スーツアクター:菊池英一)と「肝っ玉かあさん」の「京塚昌子」が一緒に写っているポスターを脳幹の奥底で想い出します。
昭和46年当時に放映していたテレビ局TBSの新番組を宣伝するポスターだったと思います。

その新しいウルトラマンに変身する主人公には脚の長い「郷秀樹」(演じるは団次郎)が、
MATという怪獣殲滅に特化した精鋭部隊に参加することから物語が展開していきます。

ストーリーはそれまでの世襲した部分もありましたが、趣が異なる部分が多くありました。
それまで描写されなかった主人公の私生活の部分、郷には帰る場所があってホームドラマの部分がフィーチャーされていました。過去の遺物による戦争の記憶、ヘドロやゴミといった公害、偏見による差別など社会問題も大きくストーリーの主題として取り上げており、更には詩的な映像表現までもが組み込まれていました。幼少の筆者には少し違和感もあったのは否めません。

そして何より怖いくらいに必死なのです。 第五話「二大怪獣 東京を襲撃」、第六話「決戦!怪獣対マット」の連作を御覧頂けば、それが直接伝わって来る筈です。「ツインテール」(髪型の語源となった怪獣)が出てくる回です。

この放映の顛末は、迫り来る危機に際して犠牲者を厭わない無謀な作戦で暴挙に出ようとする防衛軍上層部。
坂田アキ(演じるは榊原るみ)は友人を助けるために身を挺したために大怪我を負い意識不明となった病室で見舞いに来た隊員たちから郷はその作戦を聞きます。愚行を止めようと、郷が隊長に大声で進言するシーンの発言です。

「MATの使命は人々の自由を守り、それを脅かすものと戦う。隊長、そのためにMATはあるんじゃなかったんですか。」

郷の発言を受けた隊長は目を見開き、郷を誘い再度活路を見出そうと連れ出します。
使命を胸に刻んだ隊長と隊員。
彼らが何としても使命を果たすために上層部に懇願し希求することでなけなしで一度きりのチャンスを得ますが、失敗すれば即時解散の憂き目。
何より使命を全うできないために身近にいる大切な人達を守ることが出来ないという断崖絶壁に立たされた状況下で勝ち目の無い相手に決死の覚悟を持って剥き身で向かっていく様は、壮絶極まりないです。

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」を具現化した物語です。

何より悲壮なのです。 決死の覚悟があるのです。 不退転の決意が感じられるのです。 そして「ワンダバダ、ワンダバダ、ワンダバダワン」(通称:ワンダバ)というコーラスが敗走を許してくれないのです。

 

『帰ってきたワイアード』:

冒頭の『WIRED』日本版の休刊についてなのですが、定期購読して筆者にお知らせされたタイミングとしては予兆もなく青天の霹靂の如く案内が舞い込んで来たのですが、休刊については思いも寄らない事態ではなくて、またかと言う感じなのです。

それは『WIRED』日本版では、以前も何度か休刊している過去があるのです。
米国で創刊されたWIREDが日本で刊行することは、艱難辛苦と言うべきか紆余曲折の歴史を重ねてきました。

1994年に日本版が創刊されてからカラフルでスタイリッシュなファッションに富んだ紙面で未来的な技術を満載した刺激的な雑誌が珍しくて大好きで書店で見かけた際には手にとって購入していました。
ですが、その後の数年で休刊してしまいました。出版される印刷媒体としては終了してしまったことを筆者は気が付かないままで、その頃の書店では見かけなくなっていました。ウェブサイトもその後に数年経過して閉じてしまいます。
もしかするとあまりにも先に行き過ぎた為に一般受けが悪くて、そんな理由でもう無くなってしまったのかと勝手に想像しておりました。

それが出版社も変わって2011年に唐突に日本版が復活しました。
ファッション雜誌GQの附録みたいな形の増刊号として登場しました。
これが好評だったことを受けてなのか、更に編集長も交代して若林恵になり定期刊行が為されるようになりました。季刊から隔月で出版されて安定してきた頃合いを見計らって、筆者は買い逃しがないようにと定期購読をし始めて昨年末に至ります。

まさに我々読者にとっては「帰ってきたワイアード」だったのです。
それ故に、今回の休刊は残念です。
グラフィカルに視覚に刺激を与えてくれて脳内に何某かを醸してくれることでインスパイアされる雑誌だったからです。

またふたたび読者の心に火を灯す使命を持って創作という崇高な行為をワンダバというコーラスを BGM に悲壮な覚悟までを友にして「ふたたび帰ってきたワイアード」と呼べる復活の日を待ち侘びて心待ちにしています。

次回をお楽しみに。

 


 

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